ホテルビジコー / HOTEL BIJIKO
札幌に出て夜遅くなってからJRで美唄に戻るとき、ホテルビジコーのあたたかな灯りが目に入るとなんだか嬉しいと気がついて進行方向左手に席をとるようになった。新型コロナウイルスの流行が始まって間もない時期にオープンしたので勝手ながら心配していたものの着実にリピーターも増え、まちのお店で「あれ、この間も寄ってくれましたか?」「はい、近くで予定があったのでまたビジコーさんに泊まっているんです」などといった交流も目にし、ホテルを通じて新しい流れがつくられ始めたことを実感している。
<ホテル正面に立つと、壁面の美唄の板金の匠による見事な銅板葺きが目を引く。時を経るごとに緑青で味わい深くなるであろうその菱葺きのほか、レセプション周りの札幌軟石と銅板エッチング、コンクリート斫り仕上げの柱など随所に意匠が凝らしてあり、熱意をもってつくられた建物であることを感じる。木目を生かした温かみのある色調の客室では、外の景色を絵画のように楽しめる木枠の窓が印象に残った。三重硝子になっていて、防音性能と断熱機能にも優れているそう。フィンランド発祥の瞑想空間から着想を得たというロビーの”DEN”コーナーは、通路に面しつつも少し奥まっていることで不思議と落ち着く。駅前で便利というのみならず、居心地の良いホテルができたことが嬉しい。
1階部分は、ホテル宿泊者と地元客が共に過ごす場。2022年7月には地場作物を使ったスイーツや自家焙煎の珈琲を味わえるカフェ「Bimake(ビメイク)」もオープンし、新しい人の流れがつくられている。なお「ビジコー」の名はホテルの運営をしている美唄自動車学校に由来しており、一度覚えると路上教習中の車やタクシーなど頻繁にその名を見かけて親近感がわく。地元企業による運営と聞くと一段と応援したくなるのは人の常か。美唄の玄関口の新しい風景が根づいていくさまを、楽しみに見守りたい。