安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄 / Kan Yasuda Sculpture Museum Arte Piazza Bibai


 大理石の産地として名高いイタリア・ピエトラサンタにアトリエを構え創作活動を続ける美唄出身の彫刻家・安田侃氏の作品が屋内外におよそ40点常設されている美術館。春に色づく桜と新緑、夏の日差しに映える真っ白な大理石。秋には周囲の山々の紅葉も味わい深く、長い冬には木々が葉を落として雪が静かに高く大地を覆う。作家自身が丁寧に向き合いながら歩みを共にする空間はこの地でしか表現され得ないものであり、この稀有な在り方は国籍や年代を問わず多くの人を惹きつけている。

 二階がギャラリーとなっている木造校舎は、1949年に小学校の学び舎として建てられたもの。当時としては一般的な木造建築だが、コンクリートの校舎に慣れた世代には目あたらしいものにも映る。引き戸を開けて靴を脱ぎ、彫刻に挨拶をしながら階段をのぼるうちにタイムスリップしたような心持がするのは、安田侃彫刻に「時」を感じさせる何かがあるように覚えていることもあるのかもしれない。北海道らしい二重窓から差し込む光は時間や季節のうつり変わりによって室内の印象を変え、レトロな木枠を彫刻や床板に映し出す。この木造校舎や旧体育館を利用したアートスペースが醸しだす懐かしさが際立つのは、しとしとと雨音が響く日や、雪がとめどなく降り積もる厳冬期。屋外のものと比べて小ぶりな彫刻が美しく配置された空間を、窓にうつる景色や耳にきこえてくる音とあわせて味わってほしい。

 この美術館に順路はなく、彫刻名も掲出されていない。彫刻との自由な対話というと大仰だが、その時に進みたいと思った方向に歩き、点在する彫刻と出会い、心に生じる揺れや感情を見つめる時間は豊かで好ましい。「この彫刻がどうも気になる」「触れていて心地よい」といった直感的な感情に留まる日もあれば、際限のない思索にふけることもある。一人静かに訪れて一日過ごす人がいて、芝生を駆け回る子どもたちがいて、時には悠然とした風情のエゾシカが現れて、カフェでコーヒーを飲みながら一息つく近所のおじいさんがいる。一年中この空間を暮らしの一部とできる美唄で育つ子どもたちを羨みつつ、大人になってからでも、遠くに住みながらでも、その時の自分にこそ必要な居場所を見つけられたのだからそれもまた良し、と自分を納得させている。帰りたい場所があるというのは、良いものです。