農業のこと・米づくりと体験工房/貞広農場 よ~いDON

市外の方には元炭鉱としてのイメージが強い美唄市ですが、面積の3分の1近くが農地であり、主力である水稲をはじめとして、大豆、アスパラガス、ハスカップなどさまざまな農作物を作り、日本の食を支えている地域の一つです。札幌駅から列車に乗り、岩見沢駅を過ぎてまもなく左手に広がる畑や水田、そして北海道らしい防風林を見ると、美唄に戻ってきたという実感が沸いてきます。JRの線路から離れて石狩川方面に向かう景色ものびやかで美しく、新鮮な農作物に加えて景色でも農村地域の恵みを感じます。

美唄市進徳、国道12号線を挟んで美唄自動車学校の向かいで米や大豆、小麦、そば、野菜を作っているのが貞広農場。この地での米づくりは120年を超え、現在の当主である貞広樹良(きよし)さんは5代目になります。機械への興味が強く大学卒業後は神奈川県の機械メーカーで設計の仕事に励みましたが、自然の中で季節を感じながら作業をする農業への想いが大きくなり美唄の実家へUターン就農。休みの安定しない農業に体が慣れるまで少し時間がかかったものの、屋外で働くことが自分に合っていると感じた想いは今も変わらないと朗らかな笑顔で話します。

貞広農場/bibai-ffa

貞広農場では、美味しく安心・安全なお米を作りたいと土壌づくりから丁寧に向き合い、農薬の使用量もできるだけ少なくする米づくりを続けています。つややかな炊きあがりの「ゆめぴりか」、もちもち感が魅力の「おぼろづき」など、毎年7種程度の水稲を丹精込めて育てています。収穫後のお米はまずは新米として出荷し、春になったら農場内の雪冷房施設に移して貯蔵します。雪冷房は冬のうちに雪を蓄えその冷熱を利用して冷房を行う寒冷地ならではの仕組みで、豪雪地帯である美唄市では、この自然エネルギーの活用が盛んです。お米を良い状態で貯蔵できることに加え、温室効果ガスが排出されず地球環境にも優しい仕組みです。美唄の恵みを受けて育ったお米や野菜は、農場での直売や通信販売の他、国道12号線沿いのアンテナショップPIPAでも購入することができます。

貞広農場/bibai-ffa

併設している「体験工房 よ~いDON」では、季節に合わせて野菜の収穫、米粉うどん作り、餅つきなどを楽しむことができます。家族や友人と遠足のように農業体験を楽しむ方はもちろんですが、一番の人気は味噌の仕込み。工房の裏手に広がる畑で採れた大豆に自身の手を加えて出来上がる「その年の味」を楽しみに、毎年参加する常連さんも増えているそう。貞広さんは美唄グリーン・ツーリズム研究会の会長でもあり、本州の子どもたちにとって貴重な食育の機会となる修学旅行の受入れなども積極的に行なっています。畑での農業体験が主ではありますが、晩秋に訪れた学生が思わぬ大雪に見舞われて大喜びすることも。広々とした畑が一晩で真っ白に覆われる北海道・美唄も、きっと心に残ったことと思います。体験をご希望の方は、北海道体験.comページにてお申込み、または貞広農場までお問合せください。

貞広農場よ~いDON/山田和史写真事務所

これまで家族で営んできた農場に新しいメンバーが加わったのは2018年のこと。近隣の学校の卒業生と市内の企業をつなぐ美唄市のイベントで出会った北海道岩見沢農業高等学校(通称:岩農(ガンノウ))の卒業生で、高校での学びや持ち前の好奇心を活かしつつ奮闘してくれているようです。この採用は人手不足からの緊急措置ではなく、この土地での農業を将来も続けていくことを考える中での決断でした。開拓時から現代に至るまで家族経営が中心となり、それでこその安定を守っているともいえる農業ですが、広く門戸を開くことは誰かの「農業をやりたい」という想いに応えることにもつながります。後継者不足からの離農も増える中、様々な角度から農業の「芽」を育むことの重要性を感じます。

 

はたらくくるまJohn Deere/山田和史写真事務所

これからの農業はどのように進んでいくのでしょうか。食の安全性への興味や道産食材の人気の高まりは顕著なものの、それに反して農業就業者の高齢化や新規就農者数の伸び悩みは深刻です(参考:農林水産省「農業労働力に関する統計」ページ)。貞広さんは、農業は「食」という人が生きることと直結している故に人間がいる限り無くならない継続性のある仕事であるということ、農場を組織(会社)化することにより人材を雇用するという形で農業の窓口を広げられる可能性、そして農業従事者が減り続けている現状へのやるせない思いとスマート農業への期待など、いろいろな考えを語ってくれました。「食べ物を作る」という大切な役割を担った働き手の減少は、食べる側にある私たちにとっても決して他人事ではありません。消費することの一歩先に何ができるのか、農業従事者以外も共に考えていくべき大きな課題です。

貞広農場よ~いDON/山田和史写真事務所 

夏も近づき、美唄ではお店に並ぶ地元の野菜の種類がどんどん増えてきました。心を込めて手入れされている水田や畑は本当に美しく、農業が食べ物と共にその土地の景観をつくっていることを実感します。お米といえば、先日農林水産省がお米を身近に感じてもらうべく開設したサイト「やっぱりごはんでしょ!」を眺めていたら、打首獄門同好会(恐ろしいバンド名とは裏腹な生活密着型の歌詞で幅広いファン層をもつロックバンド)の「日本の米は世界一」のミュージックビデオのリンクがありました。疲弊したスーツ姿の若者がごはんのおかげで気力を取り戻す姿に、思わずこちらも嬉しくなりました。人が生きるための「食」を支える農家さんの働きはどんなに大きいことでしょうか。仕事の先にあるものが人の命へとつながる農業は、時代を越えて受け継がれてゆく大切な営みです。